日本造園学会誌「ランドスケープ研究」82巻4号を発刊しました。
特集:
都市における民間緑地の評価と認証
世の中はいま,環境認証であふれている。有機JASなどの食べ物の認証,建築物などに使われる木材のFSC(Forest Stewardship Council)認証,環境マネジメント全般に関わるISO14001 認証といったように,枚挙にいとまがない。いまや,環境認証を持つことは地球環境問題解決への貢献であることを超えて,「モノやサービスが選べるために満たさなければならない重要条件」になりつつある。
では,日本のランドスケープをとりまく状況はどうだろうか。既に,日本国内で緑地・ランドスケープに関わる認証制度が誕生してから 10 年以上が経つ。こうした動きは,国際的にみても先進的なものであるようだ。他方で,国内のランドスケープの研究者や実務者の認証に対する認識は,この 10 数年の歳月で深まってきたと は必ずしもいえないのではないだろうか。実際に,本誌ランドスケープ研究で「認証」をタイトルに掲げた論考・論文は,これまで3本のみにとどまっていたようである。
本特集は,「認証をめぐる状況は大きく,急速に変わって来ているのではないか,そして,それはランドスケープの実践・研究にとっての新しい機会を提供しているのではないか」という問いからスタートしている。冒頭で述べたような環境認証全体をめぐる変化が,ランドスケープをとりまく世界でも起きつつあるのではないか。愛知目標,パリ協定,SDGs,ESG 投資という2010 年代に入ってからの展開が,世の中の動きを広範囲に変えつつあるのではないか。そしてランドスケープの研究者や実務者の側も,視点を変え,知識や手法やアプローチの幅を広げ,変化していくチャンスが訪れているのではないか。
こうした疑問を考えていくためにまず大事なことは,現在起きている認証自体の変化,認証をめぐる変化を広く理解することであろう。そのため本特集は,評価・認証を「する側の視点」と「受ける側の視点」の双方の観点が含まれ,交差するような構成を心がけた。本特集がきっかけとなり,認証に関する理解が深まり,共有され,ランドスケープの研究や実践の新たな展開が進むことを期待したい。
(特集担当: 古澤達也,多田裕樹,土屋一彬)
特集にあたって
都市における民間緑地の評価と認証をめぐる論点 古澤達也・多田裕樹・土屋一彬
1.総説:評価/認証が求められる社会的背景
ESG 投資が促進させる都市緑地による持続可能な社会とビジネスのための価値創造 原口 真
政府系金融機関からみた都市の緑地とその評価・認証 入江貴裕
2.事例:評価/認証をする側の視点
市民緑地認定制度 -その意義と今後の展望- 脇坂隆一・塚本 文
港区市街地再開発事業に係る事後評価制度とその運用について-六本木三丁目地区市街地再開発事業を事例として- 江頭 昇・橿淵晃德
参加企業とともに緑の取り組みをアピールし,緑地担当者のモチベーションをアップする 緑の認定「SEGES(シージェス:Social and Environmental Green Evaluation System:社会・環境貢献緑地評価システム)」 菊池佐智子
ABINC 認証システムとこれからの企業緑地に対する役割 安齊健雄
都市の生物多様性保全に貢献する JHEP 認証の理念と意義 佐藤伸彦・椎名政博
国際的な環境認証制度 SITES と LEED ND のランドスケープ関連評価項目について 多田裕樹
3.事例:評価/認証を受ける側の視点
森ビルの都市再開発におけるランドスケープとその評価・認証 武田正浩・峰崎善次
HARUMI FLAG(晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業)における環境認証取得の取組み 髙木洋一郎・長岡 亘・鎌田恭享・小林真一朗・中野正則
南町田拠点創出まちづくりプロジェクト -官民連携による LEED ND の取得- 辻野真貴子・久家あかね
三井住友海上が取り組む都市緑化と評価制度 浦嶋裕子・城 千聡
4.座談会
都市緑地の評価認証のこれまでとこれから 小酒井淑乃・武田正浩・原口 真・平松宏城・村上暁信
5.総括
環境認証制度の課題と可能性 村上暁信
なお、本号では連載記事の「これからのランドスケープの仕事」「海外の造園動向」「生きもの技術ノート」も掲載されています。