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ランドスケープ研究85(3) COVID-19は空間や緑に変化をもたらすのか

日本造園学会誌『ランドスケープ研究』85巻3号を10月末に刊行しました。

特集:COVID-19は空間や緑に変化をもたらすのか Challenges and opportunities for education and research in the time of COVID-19

2019 年末に中国の武漢から始まったCOVID-19 のパンデミックは,全世界の人々の生活を激変させた。2021 年夏の時点で,日本は第5波となる感染拡大を迎えていて,9月末まで大都市圏を中心に緊急事態宣言が発出されている。年末までには接種を希望するほとんどの人にワクチンが行き届くということであるが,次々と変異株も誕生していてまだ収束の目処は立っていない。

感染拡大を防止するために日本では三密を避けることが政府や自治体から喧伝されている。三密とは,密閉,密集,密接の三つの密である。近年のまちづくりでは,賑わいの創出という言葉に代表されるように,人々を集めることによりまちや地域に活力を生みだそうとしてきた。イベント,会食の自粛というように,人が集まることが否定され,2020 年春の第1波ではまちの中心部から見事なまで人影が消えた。このCOVID-19 はまちのあり方まで変えてしまうのだろうか,それとも感染が収束すれば何事もなかったように以前の世界に戻るのであろうか。

リモートワークが推進される中で,これまで都市中心部に集中してきた人口が都市郊外や地方に移動しつつあるという。首都圏に関して言えば,緑豊かな郊外が選択されているという報道もある。また,最初の非常事態宣言下では,まちなかの様々な施設が閉鎖される中で,多くの人々が公園に殺到した。同じような状況は世界的にも報告されている。多様な用途に資する公園が人々のニーズを受け止められた一方で,来訪者が多すぎて公園施設の利用を制限しなければならない事態にも陥った。本特集では,都市から農村地域まで横断的に,COVID-19 が私たちの身近な空間や緑に何をもたらしたのか,そしてこれから私たちは計画やデザインの方法を変えなければならないのか,議論できればと考えている。

なお,最初に述べたようにこの特集が組まれた時点で収束の時期は見通せていない。今後の状況の変化によって全く異なる様相を呈する可能性もある。本特集の論考については2021 年8月時点における記録として,読者の皆さんに受け取っていただければ幸いである。

(担当:一ノ瀬友博・新保奈穂美)


目次

総論

〇感染症と近代日本の公園計画論
小野 良平

〇COVID-19の発生およびその影響と緑の役割
中静 透

論説

〇パブリックスペースの意味論 ―コミュニケーション,ウェルビーイング,そして自治
武田 重昭

〇COVID-19 で高まる農への関心と今後の都市への展望
新保 奈穂美

〇COVID-19 流行下で見えてきた人流・位置情報ビッグデータの有効性と都市・緑地研究の新展開
上野 裕介

〇COVID-19 が観光に及ぼした影響と新たな観光のあり方
田中 伸彦

〇COVID-19 がもたらしたアウトドアレクリエーションへの需要と国立公園等の管理の課題
愛甲 哲也

〇COVID-19 を経て再認識された公園緑地の“つなぐ力”と花緑人口(はなみどりじんこう)の広がり
塚本 文

〇コロナ禍が貸農園にもたらした2つの潮流
中戸川 誠

〇ワーケーション導入によるキャンプ場活性化について
國定 康子・神田 隆介

〇コロナ禍に見る潜在的なロングトレイルハイカーの顕
在化について -信越トレイルを事例として-
大西 宏志

〇リモート(フィールド)ワークへの試み
石川 初・青柳 成穂・原田 馨子

〇COVID-19 への対応から生まれた教育・研究の現場に
おける試行錯誤と可能性
秋田典子・上田裕文・町田怜子・光成麻美・一ノ瀬友博・新保奈穂美
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※発刊からおよそ3か月後に、執筆者の許諾が得られた記事はJ-STAGEにて公開いたします。