日本造園学会誌「ランドスケープ研究」85巻2号を7月末に刊行しました。
特集:循環・共生による地域の自立 Sustainable local community with Circulation of local resources and Symbiosis
ランドスケープ関係者は、自立分散型社会を基調とする地域づくりに、どのようにコミットし、どのような貢献ができるのか。
国および地方の財政逼迫、気候変動と脱炭素社会に向けた潮流、働き方や住まい方を含むライフスタイルの多様化、society5.0やデジタルトランスフォーメーションの浸透など主たる社会的インパクトへの対応は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴いさらに必要性が高まっている。
令和2年度の国の当初予算(歳入)約102兆円のうち約32%を公債費が占め、新型コロナウイルス感染症対策費が追加された同年度の公債発行額は112兆円を超えた。また、テレワークの浸透に伴う住宅や日常生活に対する需要の変化により、都市や地方のあらゆる地域で空間利用の再考が求められている。さらに、人口減少による担い手不足やコロナ対策による人の移動規制が顕在化する中、各産業分野においてAI、IoT、5Gなどデジタル技術を用いたビジネスモデルの構築や地域経営の実践が不可欠な状況となっている。すなわち、地域固有の自然、歴史・文化、産業等の資源をバリューチェーンの構築により価値化し、循環させることで地域内の経済循環を生み出し、それを周辺の地域や大消費地と共有することで共生関係を築く。こうした地域資源の循環・共生による持続可能な地域の自立に、本腰を入れて取り組む時が到来したのである。地方創生をはじめ、環境分野における地域循環共生圏の提唱、農業分野での6時産業化における地域連携強化や地域食農連携プロジェクト(LEP)の創設等は、その実現を制作的に後押しするものと捉えることができる。
本特集は、SDGsの概念にも通じる「循環・共生による地域の自立」の実現に、ランドスケープが果たすべき役割について考えて頂くことが狙いである。地域資源の背景や特徴が異なる全国各地の取り組みを通じ、地域の自然環境と社会環境の特性を読み解きながら空間を整序するランドスケープ分野が蓄積してきた幅広い知識やスキル等の有用性と、その可能性について再認識する機会となれば幸いである。
(担当:小谷幸司・加藤麻理子・松本邦彦・上田裕文)
目次
総論
〇脱炭素・自然共生によるランドスケープの創造
武内 和彦
〇地域循環共生圏の概要と政策意図
中井徳太郎
論説
〇北海道下川町におけるSDGsによる地域づくりのチャレンジ
上田 裕文
〇地域循環共生圏の形成に木質バイオマス利用が果たす役割
原科 幸爾
〇地域住民による都市農地活用型コミュニティガーデンと生ごみリサイクル
新保奈穂美
〇東京湾の環境変化と江戸前ちば海苔
青田 理乃・井上 葉波・中村 百恵・吉田 梨央・小谷 幸司
〇里山里海を未来につなぐための地域づくり -能登SDGsラボの挑戦-
北村 健二・宇都宮大輔・上野 裕介
〇「北信スマート・テロワール」 -暮らしの風景をつくる農業を核とした自立(自律)分散型共(競)創プロジェクト
勝亦 達夫
〇既存の地域資源を活かした脱炭素・自然共生 -ゼロエミやまなしの取り組み
山形与志樹・吉田 崇紘
〇琵琶湖内湖「西の湖」における産官学民連携による景観保全とまちづくり
田口真太郎
〇ジオパークからひろがる地域資源の活用と居心地の良い地域の構築 -山陰海岸ジオパークの例-
松原 典孝・阿部 江利
〇「風景をつくるごはん」プロジェクトを通じた地域環境の保全
真田 純子
〇阿蘇をモデル地域とした地域循環共生圏の構築
一ノ瀬友博
〇沖縄県南城市における地域資源の活用とランドスケープ -自律分散型システムとしてのエコミュージアムの編成
波多野 想
※発刊からおよそ3か月後に、執筆者の許諾が得られた記事はJ-STAGEにて公開いたします。