日本造園学会誌「ランドスケープ研究」85巻1号を4月末に発刊しました。
特集:復興祈念公園 Memorial Park
平成23(2011)年3月11日から10年を迎えた。東日本大震災は大地震とその後の大津波により、過去にない規模・範囲での被害をもたらし、多くの人々に強い衝撃と自身に何ができるのかという思いを生じさせた。震災直後から、政府の動きとして復興に向けた震災で亡くなられた方々への追悼と鎮魂の思いを国民全体が共有し、大震災の教訓を次世代に伝承する場が必要であることが提言され、復興祈念公園及び国営追悼・祈念しせtうの整備プロジェクトが進められてきた。
本特集では、国・県・市の行政が主体となりつつ、多数の学識経験者、造園技術者、市民が関わる、また造園分野のみならず土木・建築に渡る幅広い分野の専門家が関わり進められてきた国家プロジェクトを10年の節目に振り返り、その意義を関係者に論じて頂く。
総論では、震災後直ちに始まった未来に向けた復興を目指す議論、その議論において示された鎮魂及び復興の象徴となる施設の検討、そして「復興祈念公園」へと至る過程を学・官の視点から論じて頂くとともに、岩手県・宮城県・福島県に1箇所ずつ設置が決定された復興祈念公園が果たす意義や込められた思いを開設頂いた。さらに、3箇所の復興祈念公園は、土地の成り立ちも被災の状況もその後の環境もそれぞれに異なっている。各公園の構想検討から関わる立場の方々に、理念や公園のデザインコンセプト、建築・施設の設計について解説頂き、公園整備の場所に何度となく足を運び向き合ってきた経験とそこから生まれる様々なメッセージを示して頂いた。また、地域から公園に関わる方々に、復興祈念公園への期待や公園と活動の関わり、地域の歴史・記憶を振り返って、未来への思いを語って頂いた。
「復興祈念公園」を10年という時間軸に沿って、始点となる構想検討から各公園の決定、それぞれにおけるデザイン・設計・活動といった段階的な拡がりを、その時々で中心的に担ってきた方々に開設頂いた。また、検討の過程で用いられた図表を口絵に掲載した。未曽有の被害をもたらした東日本大震災からの復興の象徴として造園会を超えて取り組んできた復興祈念公園について、本特集が後世に引き継ぐ貴重な資料となるものと期待している。
(担当:秋田典子・古澤達也・根岸勇太・井上綾子)
目次
総論
〇東日本大震災復興祈念公園設置に至る経過とその意義
涌井 史郎
〇東日本大震災国営追悼・祈念施設と震災復興祈念公園
舟引 敏明・脇坂 隆一・佐々木貴弘
高田松原津波復興祈念公園
〇高田松原津波復興祈念公園
中井 検裕
〇ひとつの場所のために
内藤 廣
〇高田松原津波復興祈念公園のランドスケープデザイン
篠沢 健太
〇市民にとってかけがえのない高田松原の再生をめざして
阿部 勝
〇海と生きるより良き未来を創造する公園,「高田松原津波復興祈念公園」
齊藤 恵理
〇東日本大震災から10 年:被災地の造園業者からの報告
米内 吉榮
石巻南浜津波復興祈念公園
〇宮城県石巻市「石巻南浜津波復興祈念公園」
涌井 史郎
〇主体と時間のレイヤーとしてのランドスケープデザイン -石巻南浜津波復興祈念公園のコンセプト-
佐々木 葉
〇祈りの場
栗生 明
〇地域に生きる,ここで生きる
黒澤 健一
〇石巻南浜津波復興祈念公園と復興の森づくりについて
古藤野 靖
〇石巻南浜津波復興祈念公園における「杜づくり」技術
趙 賢一・山本 紀久
福島県復興祈念公園
〇過去と未来を諦観するランドスケープ
横張 真
〇福島県復興祈念公園の空間計画について
中井 祐
〇地域の歴史・文化を踏まえた復興祈念公園を目指して -住民・研究者の視点から
泉田 邦彦
〇福島県復興祈念公園と東日本大震災・原子力災害伝承館
唐橋 薫
座談会
〇復興祈念公園とランドスケープの到達点
平野 勝也・奥山 伊作・福原 賢二・脇坂 隆一・佐々木貴弘・秋田 典子
※本号より、特集記事のうち執筆者から許諾が得られたものに関して、発刊からおよそ3か月経過後にJ-STAGEで公開することになりました。