日本造園学会誌「ランドスケープ研究」84巻1号を発刊しました。
特集:変化の時代と都市・地域のランドスケープ プランニングとパートナーシップ
Urban and Regional Landscapes in the Era of Change: Planning and Partnership
加速する人口減少,気候変動に伴う災害の激甚化,Society 5.0 の到来。社会は大きな変化の時代のなかにある。このことは同時に,都市や地域におけるプランニングの前提条件も変わりつつあることを意味している。
プランニングという行為の目的は,都市や地域の目標像を将来予測等にもとづき設定し,公益的な視点から規制・誘導・事業等を適切に組み合わせ実施することで,現状をその目標に近づけることにある。社会の変化は,目標像そのものを問い直す動機ともなっているが,仮に目標像が合理的且つ妥当なものであったとしても,そこに向かう過程において計画意図と異なる土地利用がなされる(あるいは意図した土地利用がなされない)という事態の一因ともなっている。都市や地域をめぐっては,フィジカルプランニングだけでは対応しきれない歪みが各所で表出しつつある,とも言えるかもしれない。
変化の時代においては,その変化にこまめに対応できる,より柔軟なプランニングのあり方が求められていくのではないか,これが本特集を起案するに至ったきっかけである。もう少し踏み込んで言えば,暫定利用を含む柔軟な土地利用や更新を前提とした土地利用の議論,変化に対して順応的に対応するための中間組織の存在,そして地域での草の根的な取り組みや個々のプロジェクトをベースとするタクティカルな取り組みも必要となるだろう。そのときに官民や分野間,さらには現在世代と将来世代の間での,広義の「パートナーシップ」は一つのキーワードとなりそうである。
一方で,このような変化の時代においてこそ,改めて我々が立脚すべき思想や倫理観を確認してゆく必要もある。本特集では,そのようなプランニングの底流にある(べき)思想を「変化の時代を受け止める視座」として,造園学会の枠を超えた方々にご寄稿いただいた。
変化の時代に「プランニングという行為,そしてランドスケープが果たす役割はどう変わるのだろうか?変わらないものは何であろうか?」ということを問い直すことを本特集はねらいとしている。ただ,一つの特集として扱うにはあまりに大きなテーマであるが故,本特集は個々の事例を読み解くのではなく,産官学の様々な立場の方々の論考を寄せていただくという構成を選んだ。結果として,寧ろ当然であるが,すべての論考が同じ方向を向いている訳ではない。本特集を読み終えたときにも,上記の問いかけに対する明快な答えは得られないかもしれない。しかし,本特集がこれからの時代の都市・地域をめぐるプランニングに何らかのヒントをもたらすものであり,ここから議論と実践の新たな芽が生まれるものと信じている。
(編集担当:横張真・村上暁信・多田裕樹・寺田徹)
目次
総論:変化の時代を受け止める視座
座談会ー問題提起に変えて
大村謙二郎・蓑原 敬・森村 進・横張 真・村上 暁信
私たちの住みかは,これからどうなっていくのだろうか?
蓑原 敬
フューチャー・デザイン:持続可能な自然と社会を将来世代に残すために
西條 辰義
法哲学の観点からみた気候正義
森村 進
論説:ランドスケープ分野におけるプランニングとパートナーシップ
ランドスケープ分野における社会連携の展開ー行政と民間のパートナーシップの起源や新しい方向性ー
町田 誠
変化をチャンスにする暫定的土地利用の可能性
阪井 暖子
都市農地ガバナンスにむけた中間組織の理論的基盤
二宮 咲子
サステイナブルなまちづくりに貢献するみどりの中間支援組織
佐藤 留美
公民連携のかわまちづくりとQURUWA戦略
香村 尚将
総括
「都市」という系におけるアンブレラ種
村上 暁信