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グローバル通信No. 14 自然と文化の多様性をめぐる最近の国際的な動向と視点

平澤毅(独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所)

2010年は、国際生物多様性年International Year on Biological Diversityであったと同時に、国際文化親善年International Year for the Rapprochement of Culturesでもあった。この機会に当たって、6月に、カナダのモントリオールにおいて、「発展のための文化多様性と生物多様性に関する国際会議」International Conference on Cultural and Biological Diversity for Developmentが開催され、「生物・文化多様性に関する2010年宣言」The 2010 Declaration on Bio-cultural Diversityが採択された。

Fig. “World Heritage” No.56, June 2010

この宣言においては、生物多様性と文化多様性が、本質的かつ密接に繋がり、ともに人類の現在及び将来にかけての持続可能な発展の鍵を握っていること、そして、特にグローバル化によって同質化する世界の趨勢に直面してそれらが脅威に晒されていることが確認された。さらに、生物多様性と文化多様性との間の繋がりに関する知見を構築すること、環境的・経済的・社会的・文化的な持続可能性と人間の幸福を確信することの実践において多様な声を取り入れることの重要性が強く認識された。こうした生物多様性の損失を軽減し、文化多様性の普及を促進するため、関係する条約(*)のすべての締約国に対して、また、IGO、NGO、学術機関、原住民と地域社会、プライベートセクターと市民社会に対して、協力と協調を強化し、生物多様性と文化多様性との間における繋がりに関するSCBD(生物多様性条約)とUNESCOとにおけるジョイント・プログラムに貢献かつ支援することが採択されたのである。

このことは、世界遺産に関する機関雑誌“World Heritage”にも特集され(Fig.)、例えば、世界遺産の取組に長く深く関わってきたカナダのCristina Cameronは、文化と自然の遺産を巡る様々な課題について、ひとつの体系において対応してきた世界遺産の柔軟性を論じている。また、2010年7月下旬から8月初旬にかけてブラジルのブラジリアで開催された第34回世界遺産委員会においても、保全と持続的発展の議題に関連して取り上げられ、世界遺産条約と他の国際的な合意や計画(**)の連携がさらに強調されているところでもある。
このような世界の潮流にあって、2010年10月に「山陰海岸ジオパーク」が加盟を認定された「世界ジオパークネットワーク」Global Geoparks Networkにおける取組は、地質遺産とこれに関連する地域の文化的資産を基礎としながらも、それらの保護・保全や教育・普及の活動とネットワークにおける情報交換によるジオパークの趣旨の活性化を中心的なスキームとしており、自然と文化に関する多様な活動を一体的に把握し、継承していこうとする運動精神として注目されるべきものと言える。

2011年は、6月下旬にバーレーンのマナマで開催される第35回世界遺産委員会において、文化遺産「平泉 -仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群-」“Hiraizumi – Temples, Gardens and Archaeological Sites Representing the Buddhist Pure Land”と自然遺産「小笠原諸島」“Ogasawara Islands”の世界遺産一覧表への登録が同時に審議されるところであるが、このような機会にも合わせて、これまでに世界遺産に登録されている11件の文化遺産と3件の自然遺産、さらには国内に所在するその他の文化的・自然的資産をも含め、自然と文化の多様性を一体として理解し、保全していく包括的な観点について、広く検討・実践していくことの重要性を改めて認識するべきことを強調しておきたい。

(*)この宣言では、1972年の「世界遺産条約」、1992年の「生物多様性条約」、2003年の「無形文化遺産保護条約」、2005年の「文化表現の多様性の保護と普及に関する条約」の4つの条約を明記している。

(**)最新の「世界遺産条約履行のための作業指針」Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention(January, 2008; http://whc.unesco.org/archive/opguide08-en.pdf)の第44節においては、文化遺産及び自然遺産の保護に関連するものとして、上記の他、ユネスコの「武力紛争の際の文化財の保護のための条約」(1954 Protocol I; 1999 Protocol II)、「文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約」(1970)、「水中文化遺産保護条約」(2003)、「MAB計画」、さらには、関連する他の条約として、「ラムサール条約」(1971)、「CITES」(1973)、「CMS」(1979)、「UNCLOS」(1982)、「ユニドロワ条約」(1995)、「気候変動枠組条約」(1992)を掲げている。