宮城俊作氏
庭と風景のあいだ
本著作は,「庭」と「風景」の「間=あいだ」にランドスケープデザインが存在するとの仮定のもと,両者の帯びる意味について著者の実務経験と共に考察を加えた名著である。特に両者の相互関係に着目し,歴史的都市から震災復興にまで至る広範なテーマに考察を加えている点は注目に値する。著者は造園学の教職と計画設計の実務を両立し数多くの設計作品を発表してきた。約40年に及ぶ研究と実務経験を通じて氏が考究し続けている「ランドスケープデザインの本質」についての思考プロセスが展開されている。職能,建築,意匠,エコロジー,歴史的都市,震災復興,サステナビリティといったオーソドクスなるも現代・未来において解決すべき最も重要な解決課題と共に”庭とランドスケープ”が論じられている。特に第5章では著者が15年間を過ごし主要フィールドの1つとなった奈良をケーススタディとして,平城京遷都から長岡京遷都後,そして近代へと至る壮大なスパンにおける都市ランドスケープの変容を各時代のもつストーリーとともに把握したうえで,農・水系・条坊・自然環境という著者独自の切り口により奈良の歴史的遺構ならびに風致に対する構想が展開している。タイトルから想起される庭園論・風景論を超越した広い意味での都市論は,ランドスケープデザインのみならず今後の歴史的都市のあり方に対しても重要なテーマを提示していると言える。
以上より,学会賞(著作部門)を授与するに相応しいと判断された。