松木裕美氏
イサム・ノグチの空間芸術 危機の時代のデザイン
本書は,彫刻家でありランドスケープデザイナーでもあったイサム・ノグチの50 年以上にわたる活動を「空間性」という概念を用いて読み解いた研究成果である。筆者は,イサム・ノグチが活動開始してから亡くなるまでのアメリカ社会を4つの時代に区分して,それぞれの時代におけるイサム・ノグチの創作態度を空間性から読み解いている。各地に現存するイサム・ノグチの作品を丁寧に現地観察した結果に基づいた論考には強い臨場感と説得力がある。近代以降の日本のランドスケープデザインがアメリカの強い影響のもとにあったことは言うまでもないが,本書はアメリカと日本の両方に文化的なルーツをもちながら,都市や国土の環境にあらわれる問題に対して「空間への意思」で応え,提案と制作を続けてきたアーティストの仕事を通した「もうひとつのランドスケープデザイン現代史」として読むことができ,現在主流になりつつあるエコロジー的な価値とはまた異なる観点での造園学の「空間性」の議論を喚起する本である。巻末に掲載された「イサム・ノグチ関連年表」も,作家の生涯と制作作品,参画プロジェクトを社会背景とともに追える貴重な資料であり,著書全体のストーリーの理解をうまく補完できている。内容は高度ながら文章は平易で,造園学に関係ある人々に広く読まれるべき本である。以上より,日本造園学会賞(著作部門)を授与するに相応しいと判断された。