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-2020年度日本造園学会賞(著作部門)

埴生雅章氏

現象のデザイン-自然美が出現する庭をつくる

 

本書は自然の現象を活かした庭のあり方について,筆者の行政実務経験と学術的知見を織り交ぜ,わかりやすくまとめられた著作である。自然による造形と人間による造形を重ねたところに顕れる「造景」という現象をデザインすることを実験や実践を通じて思索している点や,庭づくりの起源や日本人の風景認知についての考察に独創性が認められる。また,筆者が思索する自然現象が作り出す「景」の様相を写真や概念図により分かりやすく伝えられており,筆者の経験や地域性を感じられる『雪景の形成手法に関する研究』による解説があり,そのデザイン手法についても説得力がある。それぞれの「庭」の事例で共通していることは,水や大気など地球上を循環する流体を切り取った現象の受容体としての庭であり,現象の視覚化・風景化のデザイン思考である。土地の特性を顕在化し,審美性の高い庭空間として重ねていくという,ランドスケープの一部としての庭の本質を再認識させるものであり,「令和の作庭記」となり得るものである。以上より,日本造園学会賞(著作部門)を授与するに相応しいと判断された。